Escape from tetora pod

Time goes slowly ulala,ulala...

2023年のアルバム10枚

Posted on December 9, 2023

全体的にポエムになっている。まあそういうこともあるね。

1. 大吉 / Summer Eye

とにかく一曲目の「失敗」がアンセムで、最高のトラックなのだが、他の曲たちも引けを取らない。手数は多いながらも技的にならない絶妙な打ち込みはバンドサウンドへの造詣がなせる技か。ダンスサウンドが圧倒的に多いが、白鯨のようなスローテンポもしっかりこなしていて才能を感じる。ソロ・アルバムがこんなに良くなるものだとは思っていなかった私にとって、最高の1stだと思う。個人的には、レコードとして再生する楽しみを教えてくれた一枚でもある。

解散したロックバンドのフロントマンのソロは完璧になりすぎるというか、本人の理想を体現しすぎてくどくなりがちだが、そういうのがこのアルバムにはない。しばらくく音楽活動から離れていた(本人曰く「元カノの住んでいた街にはしばらく行きたくない」)Summer Eyeが、再スタートを切ったことによる初期衝動の美しさと、一方で自分の過去のバンドのファンに向き合い、自分が作ってきた財産を否定しない態度を持って、良い塩梅に落とし込んでいるように思う。原点回帰は「帰っている」ことに意味があるのだと教えてくれる一枚。

三十過ぎたバンドマンが「人生」ってトラックで「うまくやろうとするな 気持ちが大事一番」なんて歌うのも、狙い過ぎなところに切実さが浮かぶ。アルバムタイトルが「大吉」で、最後がラッキースケベで〆られるのも最高ポイント。

そばにいて 確かなことはなにもない それでも

泣かないで 明日のことは誰にもわかんないさ

2. タオルケットはおだやかな / カネコアヤノ

超名盤。先行タイアップだった「わたしたちへ」は彼女の新しいアンセムとして定着したし、とにかく自分の中のイメージを更新するのが早い。歌詞はこれまでに増して鋭い。「私はあなたがいないと夜更かしばかり」、「最近目が悪くなって 君の顔を恥ずかしくもなく見れるよ」「優しくいたい 海にはなりたくない」、etc……。テーマのどうしようもなさで言えば前作から変わってはいないと思うのだけれど、スケールのデカさがそれをうまく包んでいる。バンドのスケールも年々上がっていて、バンドとしてのスケール感はその辺のバンドではもう敵わないだろう。

好きなベーシストを切ったアーティストのアルバムをここまで好きになってしまうのもいかがなものかもしれないが、そういう力こそ音楽に求めているものでもあるかもしれない。「タオルケットは穏やかな」で終わっていれば名盤だったが、「もしも」を最後に持ってくることによって超名盤になっている。

不安の形は日々変わりゆくようにやさしいギターを弾けるか

3. アルバム第二集 / 台風クラブ

待ってましたの第二集。一聴隙間だらけの音楽なのに、よく聞くと複雑でよくわからない。でも聞き流せるし、真剣にも聞ける。一番いいことだと思う。

前作に比べてアルバムのつなぎがしっかりしていて、そういう意味では「初期」とは違うのかも。そういう意味でも一枚聞き流せるアルバムでありながら、どこか切なさが残るな、と思っていると「火の玉ロック」につながる構成が素晴らしい。あっけに取られているともう一度「野良よ!」が始まるところもいい。こうして人生がやり過ごされていく。

流れ星に名前なんてあったかと

4. WAGON TRACK / Kamisado

インディーズバンドのアルバムをこういうところに入れるかどうかはいつも迷う。はっきり言ってしまえば憧れの跡がはっきりしていて、自分たちのものに消化しきれているとは言い難いのだが……、しかし、改めて聞き直して、このアルバムを入れないのは自分への嘘でしかない。

和製ストロークスを狙っていたらしい。確かにそこを狙っていたバンドはないかもしれない。邦楽への憧れを知識やテクニックで丁寧に埋めていて、煮詰めていくことで空虚になっていくガラパゴスの感じはない。そして何より声がいい。ワクワクさせるというか、なにかの予感を感じさせる声だと思う。でもやっぱりConverseがいい。今年一番聞いた。フリクリへのベタベタな解釈と、ベタベタなピロウズを感じさせる曲が、2023年に出てきてここまで「良くなる」なんてなかなかあることじゃないぜ。

間違っちゃないさ 近くで微笑むサンデー

5. あのち / GEZAN with Million Wish Collective

正直にいえば「狂(KLUE)」を聞いたときは、そんなにいい印象じゃなかったというか、BPMがつながることの意味をそこまで感じられなかったのだけど、語りと歌を交互に配置しながら展開される今作は、ベースとなる感情が適切にあって、軸ができているように思う。苛烈になるのも優しくなるのも、声を増やすことも、その軸を中心に作られているから、声が増えても言葉が増えても揺るがない。

「同じ雨に打たれたじゃん」という彼の言葉の悲痛さは日を追うごとに増していく。だからこそ「キミを勝手に天使にしてごめんね」という、ロックバンドであれば誰しもが負ったことのある罪に向き合うフレーズに、GEZANの新しい道を感じる。

愛って言葉はこんな日のためにとっておいたのさ

6. no public sounds / 君島青空

一曲目の「礼」をそこまで期待せずに流す。かっけーギターが流れる。嬉し~ってなって声を待つ。イントロが長い。音が途切れて、君島青空の高いダブリングの声が聞こえる。もうここからずっと飲まれている。

とにかく音がすべて気持ちいい。無骨なドラムの音と、シンセの音が重なっているところとかたまらない。一年で二枚アルバム出すのはやりすぎ。どちらかというと少ない音を引き伸ばしてどうにかするタイプのように思っていたので、今作みたいなごちゃごちゃしてるのが嬉しい。

7. 式日散花 / ドレスコーズ

一曲目「ラブ・アゲイン」を聞いた瞬間、自分がほしかったものがそこにあって感動した。アルバムとしては前半にアップテンポの曲が集中していて、後半がスローという配置になっているが、それが失速したと感じさせない説得力がある。綴られる悲劇と切なさに決して負けない声がいい。「愛に気をつけてね」ぐらいしか聞いたことがなかったが、ここまで演じられると隙がないなと思う。

8. フー・ドゥ・ユー・ラブ / フー・ドゥ・ユー・ラブ

ソングライターが二人、ボーカルが二人いるバンドのファーストがこんなことになるのか?経歴を知っていてもかなり不思議なものがある。普通二人ボーカルがいるバンドは、色気を狙ってハモりを多用したりするのだけれど、そういう器用さはほとんどない。ただただ淡々と二人のソングライターの曲が並べられているだけなのだが、これがいい。声も曲調もあまり似ていないのに、どこか後ろ向きなところだけが共通している。

妙にキレイな音で心中を歌う「呼びあった!」から「毎日はずっとつまらないのかな」と歌うニセビートルズの一曲目・二曲目の流れが何度聞いても完璧。アルバムとしてもクオリティが高い。バンドをここまで掛け持ちしている人のバンドを好きになったことがなかったので結構びっくりした。

9. MOROHA V / MOROHA

MOROHA を聞いたのは実はこれが初めてなのだけど、アルバムとしての完成度が高い。中盤ダレるなと思った部分をライブで歌ってもらってから「完全理解」したので、通しで聞くのもかなりいい。過去のアルバムを聞いてみると、アフロの話に終始していたのが、少しずつ外側に広がっているのがいいのかも。ギターで出せる音が広がるのと同時に歌詞や言葉の配置が広がっていくのがいい。「エリザベス」なんて紅白狙えるでしょ、とフォロワーが言っていたのを笑っていたけど、だんだん狙える気がしてきた。

10. dominion / ArtTheaterGuild

このバンドについては、クオリティと好きなのは決定しているので、結局入れるかどうかはアルバムとして勧められるかどうかみたいなところがある。どこか苛烈に内向きだった picnic はどうにも自分には馴染まず、「モウぜ」以外の曲はそこまで聞いていなかったけれど、今作は「AM」含めて全部好きだなと思う。個人的に一番よかったのは「GREMLIN BELL」かな。抜け殻になった白骨の意味が未だにわかっていない。自分自身に一番近い歌詞でありながら、まだ謎が多くて解けないところがこのバンドの好きなところかも。

他の候補

順不同。

  • 狂おしいほど透明な日々に / 時速36km
  • ヘルシンキラムダクラブへようこそ / Helsinki Lambda Club
  • 記憶の図書館 / 坂本真綾
  • New Neighbors / Homecomings
  • Camera Obscure / People In The Box
  • 馬 / betcover!!
  • Almost There / GRAPEVINE

プレイリスト

10枚のメモ

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