Posted on December 30, 2022
1. NIA / 中村佳穂
パッケージングの上手さが際立つ一枚だな、というのが一番最初の感想だった。自己紹介の「KAPO」から「さよならクレール」「アイミル」へとアルバムの主題を浮かび上がらせたところでワードセンスの光る「voice memo #2」を挟み、「Hey日」から「MIU」まで繋げたところで一度「Hank」を挟み、表題曲の「NIA」へと繋ぐ。最後の「voice memo #3」もリピートで流しているときはKAPOへの良いつなぎになっている。一曲一曲のクオリティはさることながら、アルバムとしての出来が本当にいい。
でも、それは意外でもあった。ライブや演奏を見ても、天才的なリズム感覚で全てを切れ目なく繋いでいくのがうまいアーティストだという認識だったし、そういう人がここまでパッケージングを意識しているのは意外だな、と考えながら何度も再生していると、アルバムのテーマとして「選択」が浮かぶ。限りなく選んでいくこと、進んでいくことを肯定し、その後押しをしながらも、一方では選んだこと・進んだことによって失うものを数えている。そういうある種の矛盾を一枚のCDに適切に入れて切り取る。そのバランスは匠で、切実だ。選ぶことは失うこと、それを確かに痛みとして抱えた人が、それでも「優しい人から舞台を降りる必要はないから」と歌いきる、そういうことに救われている。
「ゆけない道はない」 それは嘘だと思うんだよ
2. GHOST IN THE MACHINE DRUM / SuiseiNoboAz
爆音をやりながら繊細に音を重ねる。そういうある種矛盾に見える行為ができるのは、彼らのテクニックがどんどん良くなっていくというのもあるだろうし、ライブのたびに目まぐるしく良くなっていく松田タツロウのドラムもあるだろうし、繊細なラインを紡ぐピアニストらしからぬ高野メルドーのピアノの影響もあるだろう。「フィジカルとゴースト」の両方から音楽にアプローチしていく彼らの今回のアルバムの主題は「ゴースト」だ。
亡霊とは言ってもオカルトではない。千年後まで続く音楽を作るためにありとあらゆる場所に根を張るために探索を続ける中で、彼らは亡霊を見つけたのだろう。土地の記憶とも呼ばれるべき、都市に重なる数々の記憶。千年前から五年前まで、ありとあらゆる年代の記憶が積み重なり、その上で立っている。受け継ぐつもりもなければ引き渡すつもりもなかったそれらの記憶が、しかし確かに俺たちの都市を作っていると歌うのは、石原的なロマンチシズムを感じる。「亡霊」「ゴースト」は彼らの音楽の中で逆回転して、俺らが先に進むための確かな支えとなる。このアルバムの中に、「THE RIDER」「群青」という、親から子へ、というクラシックな継承も歌われているのが彼ららしい。
3020から2年。まだ道は続く。「この先も、きっと続いていく」。
繰り返す Syllogize これは訓練ではない 本当の瞬間は一度しかこない
3. DOKIDOKI / サニーデイ・サービス
サニーデイ・サービスのアルバムを改めて再結成後から聞いてみると、だんだんと実験的な方向になっていったあとに、急に「いいね」でバンドサウンドに回帰して、そこから「DOKIDOKI」でもっと深く……という流れは見える。見えるけど、なんかそうじゃない気がしている。そうやってよかったねと言い切るには、あまりに深い悲しみがあるように思う。
「今の君はなんだか歳を取ってしまったみたい」なのに「今の僕はなんだか何もしらない子どもみたい」という対比からもわかるように、全体的に無力感の強いアルバムだと思う。 全体的に投げやりで、それがパンクっぽい雰囲気も生み出しているけど、それをこれまでのバランス感覚で見事に引き戻している。結果として聞きやすいのに、聞いていくとドツボにハマるような名盤が生み出されている。あなたのそばに行き歌を歌ってあげたいのに、家を出ることも難しい。決してそれは大げさなことじゃないと、今では誰もが知っている。そうだとしても、流され続けるだけの風船に希望を込めるのは、ロックバンドだなと思う。
ニュースで言ってた 火星の谷に水が流れてたと 寒い朝、ぼくは思う 家を出ることの難しさ。
4. Les Misé blue / Syrup16g
クオリティに関しては言うことなし。ギターの音は相変わらずukって感じ。作詞も以前ほど気張っている感じがしなくて自然で、だからこそちゃんと刺さってくるものがある。一枚一時間は長いけど、でも苦痛に感じない不思議なバンド。Syrup16gの5年ぶりのアルバム。たしかにコンスタントにアルバムを出してくれるバンドに比べるとペースは落ちるけど、一度解散を挟んだバンドにしては十分だろう。
このアルバムの一番良かったところは、メジャーデビュー以後の張り詰めた感じも、解散間際の投げやりな感じも、再結成後の自罰的な感じもない、ということかもしれない。COPYの再現をしようとか、そういう意思は感じられない。リラックスして、ただ曲を作って、その結果として五十嵐の持つもともとの悲しみ、生きていくことの下に薄く広がっていて、誰も気づかないフリをしているだけの悲しみがダイレクトに伝わってくる。そういう意味では、COPYに一番近いんじゃないですか。そう思うこともある。
でも、COPYではない。変わらないでいるために変わらなければいけないのであれば、変わらないままでも変わってしまうのだ。「変われない自分を知った」と歌う、彼らも確かに変わっていく。それが救いなのかどうか、私には未だにわからない。
あなたのその痛みをうつして
5. MY REVOLUTION / ゆうらん船
テーマの一つは「踊れる」らしい。インタビューでそう言っていたけど、ダンサンブルとは言い難い。誰もが踊って笑って聞いていられるような、そういうアルバムにはなっていない。では踊れるという言葉に何も共感できないかというと、そういうわけではない。少なくとも一つ前のアルバム:自分たちの中の感性を見つめて作り上げた世界である「MY GENERATION」に対して、今回のアルバム「MY REVOLUTION」は開けている。開けていることがすなわち肯定的なことではない。前作より喜びが伝わりやすいのとそれ以上に苦しさははっきりと伝わってくるが、それも含めて外に向かった音楽が私達とぶつかるときに、私たちはその衝撃で体を動かしてしまう。そういう意味で踊れるアルバムである。
あそこまで全員のプレイヤースキルがあるのに、ソリッドな感じはまったく受けない。これは明らかにバンドが持つ特徴だと想うし、彼らが持つ背景の多彩さがそうさせているのだろう。
悲しみも全部飼いならしていける 嘯いた僕をほんとうは誰も笑ってはいけない
6. BADモード / 宇多田ヒカル
あまりに出来が良くて言うことがないが、無理矢理文句をつけるなら、ボーナストラックは別のCDにしてほしかったというのがある。まあでもそのぐらい。マルセイユあたりが最後に来てBADモードが流れるのが物理的にできたらなと思うんだけど、LP買えって話になりそう。気分じゃないのまでの流れは本当に最高。One Last Kissを作れるアーティストは世界にもう一人ぐらいいるかもしれないが、One Last Kissをアルバムに埋められるのは宇多田ヒカルしかいない。
嘘じゃないことなど一つでもあればそれで十分
7. ミメーシス / 日食なつこ
√-1にハマったのをきっかけとして、曲を漁ってみたところ、やっぱり今作が一番いい意味で振り切れているな、と思う。アルバムのタイトルの通り「擬態」を行うことで、これまでも持っていた表現力を十分に活かすための方法を確立している。どこか懐かしい感触もうけるアルバム構成も、アルバムタイトルにあっていて良い。
どっからが俺一人だったのかもうわかんねえんだ
8. Pre Normal / paionia
なんとなく、Syrup16gみたいなバンドだと思っていたし、そこから脱却することはないのかなと思っていたので、一曲めから驚かされたところはある。 明るいアルバムだとは言わないけど、目が据わっている感じというか、卑屈な真っ直ぐさが心地いい。 スリーピースバンドにありがちなギターの音だけに頼り切る感じとかもなくて聞きやすい。いいアルバムだと思う。
君無しで 昨日の手にさよなら言えるだろうか 言葉で暮れる自分よ
9. Hello, my darkness / Helsinki Lambda Club
軽薄な感じのシングルカットが続いて、それはアルバムが出てもあまり変わらないのだけど、しかしちょうどいい。どこか切実になりすぎるよりも、一線を引いている方が結果として切実さが残る。どこか余裕な態度のほうが目につくバンドだけど、一方で「真っ黒な海 浮かぶバイオリン」なんて歌詞を書くぐらいのロマンチシズムはあって面白い。
両手に抱えたのは花だろうか 今はどうでもいい
10. 月夜の残響ep / The Birthday
なんというか、こういうアルバムはもう作らないと思っていたのだ。それはCORE 4のオルタナ一直線な感じからもそうだし、サンバーストのオルタナ気味な傾向からもそう思ってた。でもチバユウスケの話によると、スラムダンクのOPになったLOVE ROCKETSはサンバースト以前から作成していて、 LOVE ROCKETS以外の候補曲はサンバーストに入れたらしい。そう言われると、アルバムの雰囲気を統一するためにオルタナっぽい曲をサンバーストやCORE 4に入れていただけだったらしい、とわかって拍子抜けしている部分はある。
でも、それでも嬉しかったな、と思う。Buddyで貫かれた身としては、パンクとロック、カッコいいそのもののチバユウスケが「ある朝」を歌うのは、めちゃくちゃかっこよくてでもやっぱどこか寂しかった。そういう感傷を吹き飛ばす「咆哮」、言葉の意味を捨てた「トランペット」、何十年の間待ち続けていたのかもわからない世界の終わりすら煽ってみせる「スカイブルー」、そして「LOVE ROCKET」で愛まみれだ。一番カッコいい人の言葉はわからないぐらいでちょうどいい。
愛しているとかって言ってもいいんだぜ そこにはなにかあるかもしれない
その他
- JUMP LOPE FREAKS / ズーカラデル
- 十枚目に入れるか迷ったアルバムその1。相変わらず曲数の多くて重いアルバムを作るし、あんまり進んでいないようにも見えるけど、ある日急に裏切られたような気分になる曲を出すんだろうなと思っている。そういうのを期待しているし、そうじゃなくてもいいバンド。
- Cとし生けるもの / リーガルリリー
- 十枚目に入れるか迷ったアルバムその2。メジャーデビューアルバムよりも、もうちょっと確信に踏み込んでいる感じがある。中央線は今日も人が死んでしまったね。でも恋をつなげてくれるんだよな。その二つを並べるのがリーガルリリーらしさといえばそうなのかもしれない。そうかなぁ。
- ぼちぼち銀河 / 柴田聡子
- 狂ってはいるが、スピっているわけではない。ある種の狂人の真似事が白けないのは、そこにかなり負の感情があるからだろう。自分に向けても、世界に向けてもどこか負の感情があって、それをかなり真摯に見つめながらポップになるように作り上げている。特にタイトルの通りの「雑感」は天才。
- HOWL / ROTH BART BARON
- 去年のアルバムのほうが好みだったなという理由だけでランキングから外したけど、でもやっぱいいアルバムには変わらないですね。ONIで急に変えて、最後のカタルシスはすごい。
- Paradise review / 踊ってばかりの国
- ニーチェが入ってないという理由だけで外した。ココ最近では一番聞きやすいんじゃないか?なんか歌詞とかはかなりRAWな感じがあって良い。
- Seasons.ep / Laura day romance
- あまり革新的なことをやっていない、みたいな評価になってしまうのかもしれないが、この手付きをこのクオリティでできるバンドはLaura day romanceしかいないのではないかと思ってしまう。四枚全部リリースされたらさ、二枚組のLPにしようぜ。
雑感
洋楽は全くdigってない。来年の目標ではなく来世の目標にしたほうがいいかもしれん。良いスピーカーを買ったからなんとか……。
毎年去年のアルバムランキングを見てはそうかなぁという気持ちになっているので、多分今年もそうなるんだろうなと思う。あんまレビューとか気にしないほうがいいかもしれないとも思っている。ここで変に文字を書くと、それに引っ張られがち。
今年きいたやつ
良かった曲
- 菫 / 坂本真綾
- 祝辞 / 中村佳穂
- √-1 / 日食なつこ
- 群青 / SuiseiNoboAz
- トランペット / The Birthday
- アルペジオ / Homecomings
- PINK BLOOD / 宇多田ヒカル
- 地球でつかまえて / リーガルリリー
- うつして / Syrup16g