Escape from tetora pod

Time goes slowly ulala,ulala...

『七尾さんたちのこと』のこと

Posted on November 7, 2019

吉﨑堅牢氏『七尾さんたちのこと』を読み終えました。気がつけばISF7の開催日でもある頒布日6月9日から半年以上の時間が経っていて、ISF8も過去のことになっています。当日売り子(という名のただの手伝い)をやらせてもらって、一番最初にあの分厚い文庫本を読むという贅沢をさせていただいたというのに、こうして感想をしたためるまでにあまりに多くの時間がかかってしまっていました。その頃には自作を書くことに時間を取られていたとだけ言い訳をさせていただきたいです。

pixivの連載時点から、凄まじい小説が始まったものだと思っていましたが、改めて一つの本として読み直すと、その素晴らしさにため息をつくことしかできません。このアイドルの物語を、読んで確かめていただきたい、それ以上のことを言う必要はどこにもないのでしょう。しかし、こうして本になるということは、手にとった人のための物語に――ここでは私の物語になるということでもあるでしょう。そこで無粋を承知で、この物語にとっての私の気持ちを、書かせていただければと思います。

『七尾さんたちのこと』は、アイドルの物語でした。ステージの上で輝く彼女たちが、一体どのように時を過ごしていったのか。どのように悩んで、どのように歩み、どのように輝くのか。そういったことが本当に丁寧に描かれた小説でした。彼女たちをより輝かせるためにある仕掛けは多くありますが、その中で一つ上げるとしたら、やはりライブシーンでしょうね。ライブシーンを描くのは、本当に難しいことだと一度でも小説を書いたことのある方ならわかっていただけると思いますが、氏のライブシーンの洗練された描写は、私達の想像力に働きかけて、目を閉じれば彼女たちが踊っているような、そんな力があります。彼女たちの動きと、その世界と、光、音、そういったものが美しく描かれていました。

『七尾さんたちのこと』は、非常に美しい言葉で彩られた小説でした。氏の書く文章には、リズムがあり、適切な動きがあり、並びがありました。描かれていく日々が、あまりにもきれいでした。彼女たちのために書かれた文章がとても綺麗で、それ自体が彼女たちに対する祈りのようでもあり、祝辞のようでもありました。こうした文章で書かれた彼女たちは、それだけで十分幸せなのではないかと、そう言えるような美しさがありました。

『七尾さんたちのこと』は、人々の話でした。物語に出てくる大人たちも、アイドルも、各々に哲学がありました。大人の哲学がやさしくアイドルたちに差し出されているのは、本当に暖かったですね。参考文献に並んだ書名を見ていると、大人たちの哲学が浮かんでくるようでもあります。彼らの哲学があれだけ書かれていることが、氏の哲学でもあるように思います。

『七尾さんたちのこと』は、素晴らしいアイドル小説でした。改めてこの物語を読むことができたことを、本当に嬉しく思います。ありがとうございました。


改めて読み直してみて、やはり夏が一番好きですね。焼き尽くすようなあの季節を好きになる、そういう話だったと思います。この物語を持った私の季節は、また新たな光景を見せてくれるのでしょうね。